「アレン君のバカ!!何やってるのよ!」


 の部屋から少し離れた所

 リナリーは目に涙を滲ませアレンを怒った


 「すみません…つい…」

 「ついじゃないわよ!本当に怪我するところだったのよ!」

 「ぅ……」

 「アレン君がどう頑張っても、無理なのよ。
 神田に出来ない事は私達にもできない」

 「…」

 「もうアレン君は絶対に近づかないで」

 「え!?」

 「当然でしょ。アレン君が怪我したらどうするの?
 軽い怪我じゃすまないかもしれないのよ」

 「…はい。わかりました…」

 「それにしても、ちょっと驚いたわ」


 不思議そうにリナリーが言う


 「何がですか?」

 「が名前聞くなんて、なかったもの」

 「そうなんですか?」

 「えぇ。兄さんのことはクソ眼鏡、私のことはガキとか小娘とか、
 名前なんて呼んでくれなかったもの」

 「何か、自然に思い出そうとしてるんでしょうか?」

 「そうだといいわね」














  













 「ちっ…何も手につかねぇ…;」


 一方神田は、考えても仕方ないと自室で六幻の手入れをしていたが、
 のことが気になってそれさえも手につかない状態だった。


 「早くしないと、本当に記憶が消える…
 だが、にはたやすく近づけない…」


 神田は六幻を片付けベッドに横になった


 「どうしたらいいんだよ…」


 呟きながら意味もなく天井を見る


 「……!?………俺を殺す…夢…」


 ふとの言葉を思い出し起き上がった


 「賭けて、みるか……。

 明日だ…

 チャンスは一回、たとえ失敗しても…それでもいい」


 神田は手に力を入れ、自分の中に居るを見て決意する


 「…今日は」


 神田は再び六幻を取り出し軽く振って止める


 「精神統一」


 目を瞑って


 「(俺が焦ったり不安がってたら、あいつは余計に俺から離れる…
 また人から離れていく。また辛い思いをする…
 そんなこと、絶対させねぇ!)」


 明日に備え集中して心を研ぎ澄ませた…








++++





―翌日



 「コムイ」


 神田はコーヒーを片手に仕事をしていたコムイに話しかけた


 「ん?どうしたんだい?神田くん。今日はまだ任務は…」

 「今からに会いに行く」

 「え……」


 神田の言葉に驚き一瞬持っていたカップを落としそうになったが
 なんとか落とさずすんだ。だが表情は驚いたままだった


 「神田くん。気持ちはわかるけど……僕は会うのは一回って…」

 「一応考えはある。ほとんど賭けに近いが」

 「賭け!?…そんな無茶な!それならもうちょっと時間を置いてからに…」

 「時間がない。少しでも可能性があるなら、実行したい」


 強い意志のこもった目でコムイを見る


 「……その賭けの、危険性は…?」

 「もちろんある。…最悪の場合のことも考えて、俺はココに来た」

 「…!?じゃあ尚の事ダメだ。そんな危険な事はさせられない」

 「…もう覚悟はある」

 「君がよくても、僕達や教団にとってはよくない。
 賭けなんていう不安定な状態では会っちゃいけない」

 「コムイならそう言うだろうと思ってはいた。
 だが、俺は止めてもらいに来たわけじゃねぇんだ!」

 「…忘れて欲しくない。僕だってその気持ちはわからないわけではないんだ」

 「別に忘れられることが嫌なんじゃねぇ!
 あいつ、このままじゃまた一人だろ!それが嫌なんだ!!」

 「神田くんも変わったね。
 でもよく考えてみて、もし神田くんが賭けをしてちゃんの記憶が戻ったとしても、
 神田くんが最悪の状態だったら、どっちみちちゃんは一人だよ?」

 「戻れば、コムイだってリナリーだって、モヤシだっている。
 それに、賭けに勝つときは、俺自身も勝つ!」


 一歩も引こうとしない神田に

 「……はぁ…。わかったよ。でも…、
 言っても無駄だろうけど、無茶はしないで」


 コムイは負けた…


 「出来ればな」




 そう言い神田は司令室を後にし、の部屋へ向かった


 「愛の力はここまで人を変えるんだねぇ…
 ちゃんもそうだけど、
 神田くんも昔はあんなじゃなかったもんね…」








+++





 「(今のの性格からして、自分から記憶を思い出そうとかいうことはほぼない。
 それならこちらから何かを起こさないとだめだ。

 もしの夢が正夢だとしたら、どう転んでも俺は怪我を負う。
 生死のことはわからないが、その事実を起こすことに意味があるはずだ。

 夢のことはそうとう気にしていたから、たとえ記憶がなくても、
 良いほうにも悪い方にも、何らかの引き金にはなるだろう)






 ………」





 神田はの部屋の前で止まり、一度深呼吸した


 コンコン


 「神田だ。入るぞ」

 「……」


 からの返事はない


 「…」


 返事がないことにためらいつつも、神田はドアノブの手をかけた

















 



07/08/12